私と太田クンは5年くらい前、私がある映画祭の審査員をやらせてもらった時に知り合いました。年齢は20歳くらい離れていてなんだか感覚的によくわからない部分もあるんですが、映画に対するアプローチの方法や批評的に世界を捉える視点等がもしかしたら昔の自分に似てるんじゃないかと思える部分もあって長く付き合っています。私の監督作『タリウム少女の毒殺日記』の撮影でもいろいろ手伝ってもらったりしました。
そんな太田クンから『わたしたちに〜』を完成させたいという相談を持ちかけられたのは、2012年の秋だったと思います。
「かつて憧れていた高校の先輩がいた。彼はミュージシャンだった。その先輩(壮太)ともう一人の友達(蔵人)と三人で映画を作ろうと何年も撮影を続けていたが、壮太が自殺してしまった。このことを映画にしていいのかどうかというところから迷っている」
このような太田クンの想いを聞くことから私は『わたしたちに〜』に関わり始めました。構成をゼロから練り直し、追加撮影を行い、編集を何度も繰り返して作品が完成したのは、それから半年以上経った2013年の5月でした。
私のコンセプトとしては、太田クンと太田クンの中でもうひとりの自分として生きている壮太との折り合いを作品の中でどうつけるかでした。もしかしたら自分が殺してしまったんじゃないかと後悔の念に駆られる太田クン自身と「お前になんかに殺されるわけがない。俺には自殺する才能があったんだ」と自分の死を冷静に分析する太田クンの中の壮太との対話を繰り返すことで、生と死のギリギリのせめぎ合いを当事者の視点で描けるのではないかと思っていました。
結果、自分としては、壮太、太田クン、そしてその二人の間に立つとてもチャーミングな蔵人という三人の普遍的な青春映画になったと自負しています。
『わたしたちに許された特別な時間の終わり』は、昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭“アジア千波万波”で正式上映され、大きな反響を呼びました。そして、今月末にはドイツのニッポンコネクションで上映されます。国内での劇場公開は、ポレポレ東中野で8月からと決定しました。
ここまでは、とんとん拍子です。…しかし、皆さんご存じの通り、私はプロデューサーのくせにお金がありません。若い太田クンにはもっとありません。現在、『タリウム少女〜』の時と同じようにクラウドファンディングで配給宣伝資金の支援を求めていますが、本日5月15日現在、締切まで残り7日で目標金額の半分にも届いていません…
私は、この映画を生きづらい世の中で生き抜こうとする多くの若者たちへ、かつての若者たちへ、若者たちの親たちへと広く届けたいと思っています。たかだか100万や200万がないだけでこの映画を埋もれさせてしまうのはあまりにも悲しい状況なんじゃないかと思います。しかし、その100万や200万がどうにもなりません…
いつまでも皆さんに頼っている状況自体を変えるべきであることはわかっていますし、その為の活動も行っているつもりです。だけど、逆に言うと、みんなで支え合いながら、あらかじめマーケティングされた大資本の映画ではない作品を広げて行くことも、ひとつのオルタナティブな方法なんじゃないかとも思います。そして、そういう方法で映画を多くの皆さんと共有することが今の生きづらい社会を少しでも変えられる力になるのではないかと。
最後に『わたしたちに〜』に寄せて頂いた谷川俊太郎さんのコメントを紹介させて頂きます。
「〈あらすじ〉に要約できない、細部からもこぼれ落ちる、虚構の手練手管も役に立たない、生きるという事実が、逆説的に映像を支えている。――谷川俊太郎(詩人)」
ご興味を持って頂けましたら、ご支援のご検討をどうぞよろしくお願い申し上げます!
★クラウドファンディングの詳細については、下記ページをご参照下さい。
https://motion-gallery.net/projects/watashitachini
『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(監督:太田信吾/119分/2013年)
http://watayuru.com/
https://www.facebook.com/watashitachini
https://www.youtube.com/watch?v=iqLvvIwohrI